【大学受験】日本史用語解説

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武士(在地領主論と職能論)

武士

 武芸・戦闘を専門とする身分の人々のこと。9〜10世紀にかけて誕生した。乗馬して弓矢を使った戦闘をすることが多く、彼らの礼節や質実・武勇を重んじる道徳は「弓馬の道」と呼ばれた。

 武士がどのように誕生したかについては議論が割れており、ここでは「在地領主論」と「職能論」という代表的な2つの説を紹介する。

 

在地領主論と職能論

 平安時代初期ごろまでは、軍事力は兵役によって徴収された農民が担っていた。では、どうして武力を専門とする「武士」が誕生したのだろうか。

 在地領主論では、そのきっかけを兵役の崩壊と考える。平安時代には朝廷が全国を一律で支配する能力がなくなり、地方の徴税は国司が任されるようになる。徴税と支配を一任された国司は、その権力を利用して少しでも多くの税を取ろうとするようになった。そこで発生したのが、郡司や荘官といった農地を経営する在地領主層との対立である。在地領主層は、武装して抵抗することで国司による徴税を防ごうとした。これが武士の誕生である。

 一方職能論は、武士の誕生を平将門の乱藤原純友の乱といった、平安時代に相次いだ地方の反乱をきっかけと考える。朝廷には、もともと宮廷警備や都の警察を専門とする中下級貴族(軍事貴族)がおり、これらの反乱の鎮圧で彼らが活躍した。反乱鎮圧のために地方に受かった軍事貴族の中には、京に帰らずそのまま地方に住み着いた人々がいた。彼らはその地を支配するようになり、多くの兵士を従えるようになった。これが武士の誕生である。

 

 在地領主層では広く全国で武士が誕生したことを説明できるが、源氏や平氏のような祖先に天皇を持つ高貴な武士の存在を上手く説明できない。職能論では、源氏・平氏の存在や武士が馬や高価な武器を所持する理由が説明できるが、武士が全国に存在することを上手く説明できない。

 どちらの説が完全に正解ということはできないが、両説の特徴が入り組んだ結果、すなわち在地領主層と貴族層で武力を持つものが同時に台頭した結果、武士が誕生したというのが妥当なところであると筆者は思う。